top of page
検索
  • 執筆者の写真Genfu Yagi

「ハ」ンドウイルカなのか「バ」ンドウイルカなのか

 論文の報道に関するやり取りの中で、と「ハンドウイルカ」なの?「バンドウイルカ」なの?という質問がありました.これは,家族や親族などいわゆる「一般」の方に自分の研究の話をしているとよく質問されることです.僕は前者で呼んでいますが,水族館には大抵後者で書かれていることと思います.それが,一般の人に話すとよく聞かれる理由になると思います.自分はこれについてはいつも「どっちも正しいし使われている」と答えています.

 哺乳類の標準和名に迷った時は基本的に日本哺乳類学会の出している「世界哺乳類標準和名リスト」に則るのが良いと思います.


日本哺乳類学会,世界標準和名リスト:https://www.mammalogy.jp/list/


この日本哺乳類学会の標準和名リストでもハンドウイルカ(バンドウイルカ),ミナミハンドウイルカ(ミナミバンドウイルカ)と表記されています.


 では命名の起源はどうなっているのでしょうか?過去の論争としては鯨研通信内で大隅 (1983)と水江(1984)で正しい標準和名について議論がされています.大隅 (1983)では小川博士が「ハンドウイルカ」命名の根拠としたのが1884年出版の『水族志』であるとしています.一方で同じ文献を引用した服部 (1888)が「ばんどういるか」と記載していて,「混乱する」と本文中に綴っています.また,この『水族志』以前に,1828年に書かれたシーボルトの手記の中に"Bandoor"と記載があることからこバンドウイルカの方が正しいと主張しています.一方で,水江 (1984)では,シーボルトの手記は文字が小さく文字の判別が難しいことと,そもそも小川博士が標準和名を考える根拠として不十分と判断したため和名提唱の際に無視されたのだろうと主張しています.また,バンドウイルカの名称については江ノ島マリーンランドにて,「伊豆で捕獲されたイルカだから関東を意味するバンドウの方が客受けが良いためバンドウとした」と伺ったというエピソードが述べられており,他の水族館がこれに追随したものと考察されています.したがって,水江 (1984)はハンドウイルカが正しいと結論づけられています.


 個人的には,水江氏の主張を支持するように水族館を中心にバンドウイルカが使われていて,野生のイルカ研究者を中心にハンドウイルカが使われているように思います.大隅 (1983)の議論の中に出てくる『水族志』ですが,今ではデジタルで読めるので自分で確認してみました.するとなんと「バンドウイルカ」と「ハンドウイルカ」両方の記載を見つけました(Fig 1).これは小川博士の命名の際の根拠として『水族志』に「ハンドウイルカ」と記載があったとされることと,服部(1888)に『水族志』を引用して「ばんどういるか」と書かれていることに矛盾がありません.江ノ島マリンランドの営業開始は1957年であり,『水族志』は1884年出版です.この事実から,水江(1984)の主張する水族館による「バンドウ」使用前からやはり既に表記ブレがあったものと思います.かといってどちらかに統一しようという動きはたぶんありません.

 ということで、この問題は結局解決していないように思います.この問題について論文などあったら読んでみたいので情報等あれば教えてください!個人的にはシーボルトの手記の中の赤枠はbなのかhなのか英語圏の人の意見を聞いてみたいですね.また,シーボルトの他の手記を調べてbとhをどう書き分けてるかといった点も調べてみたいです.



Fig 1. 『水族志』におけるTursiopsの記載の抜粋.



引用文献・資料


閲覧数:463回0件のコメント

最新記事

すべて表示

国内でイルカ・クジラを研究できる大学まとめ

これから大学・大学院を選ぶ人にむけて日本でイルカ・クジラを研究できる大学をまとめてみました. 僕自身,高校の時に調べるのに苦労したのでどこかに情報がまとめてあると便利だと思いました. そこで今回は大学を選ぶ際の注意点とイルカを研究している大学をまとめてみました....

国内のミナミハンドウイルカ事情(随時更新)

最終更新 2023/3/10 ミナミハンドウイルカはインド洋~西太平洋の温帯から熱帯に生息します.沿岸にスポット状に個体群を形成し,各個体群は遺伝的に閉鎖的な傾向があります.しかし,稀にその個体が生まれた個体群から遠く離れた海域で見つかることがあります.体の形と同じく,動物...

Comments


記事: Blog2_Post
bottom of page